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山の本


 山歩きを考えながら読んでみた,雑多な「山の本」を紹介します。

       
 山岳小説  ノンフィクション
(山行記録,随想など)
 ノンフィクション
(評論,ルポルタージュなど)
 ノンフィクション
(指示書,ガイドなど)


 本のタイトル 著 者  出版社   内     容
 読了日
赤石岳謎の遭難   出利葉義次 諷詠社
(2022.1刊) 
 東海大学山岳部出身でヒマラヤ遠征など山の専門家の方の作品です。リニア中央新幹線工事に関わるボーリング調査の隠された真実をテーマに地質調査会社の社長が謎の死を遂げる話で赤石岳の登山口「椹島」が舞台です。赤石岳の登山や山岳救助隊の捜索状況などプロの状況描写が素晴らしい。物語性としては平凡ですが,山の雰囲気や社会問題性としては非常に引き込まれました。  2024.5.18
 日本300名山ひと筆書き 
田中陽希日記
田中陽希  平凡社
(2022.8刊) 
 新聞書評で絶賛されていたので手に取ってみました。3年7ヶ月かけて301名山を歩き通したという行為もさることながら,その計画に挑戦しようとした意気込みには圧倒されるモノを感じます。人生は短い,それを太らせるのは毎日の積み重ねだという下りも響きます。素晴らしい写真と謙虚な日記が親しみを増してくれました。 2023.1.25 
続・山女日記
残照の頂 
湊かなえ  幻冬舎
(2021.11刊) 
 老いてからの登山の中で過去を振り返り,また登っていこうという気持ちを確かめさせる山岳小説です。すべて女性ですが,5人の過去と現在を複雑に絡めながら五つの山行を物語っていく手腕に,思わずのめり込んでしまいました。  2022.6.1
 山へようこそ 石丸謙二郎   中公新書ラクレ(2020.10刊) NHKラジオの「山カフェ」でマスターをしており,何度か聞いておりました。山に関して造詣が深く,山歴もとても長くてマスターには本当に適任だと思いました。これからも番組が楽しみです。   2022.4.15
 ぶらっとヒマラヤ  藤原章生 毎日新聞出版(2021.3刊)   毎日新聞記者がヒマラヤのダウラギリ登山をした体験記です。山行記録というよりも,生きているとは,とかなぜ山に登るのかといった問いかけをしています。8000mのデスゾーンで生と死を見つめ直し,日常生活を捉え直したところが素晴らしいと感じました。塩野七生氏が推薦しています。  2022.4.15
 絶景・世界の山歩き  佐藤れい子  新潟日報事業社(2022.1刊)  チリのエルプロモ峰ツアー登山で一緒になった方の著書です。自己紹介で「セブンサミッツ」を目標にしていたという言葉に,この方がとあまり本気になれませんでした。しかし,この本を読んで本気になりました。見かけは普通のおばさんでしたが,体力気力は並の人ではないなと思っていました。懐かしい方の本を見つけて幸運でした。  2022.2.26
 人生のことはすべて
山に学んだ
沢野ひとし  角川文庫
(2020.7刊) 
 「本の雑誌」のイラストレーターをしている著者は私より5歳先輩です。独特のイラストはどこかで見かけたような記憶がありますが,登山をするとは知りませんでした。50年の歳月の中から50の登山記録を紹介しているのは圧巻です。若き日の山から老いてからの山と,山から受けた彩り豊かな感性を身近に感じました。  2022.2.19
還らざる聖域   樋口明雄 角川春樹
事務所 
(2021.6刊)
 北朝鮮の内戦により特殊作戦軍が屋久島に上陸し,全島を武力制圧するというとても思いつかないようなストーリーです。登山者を巻き込み,山を舞台に戦いが進められます。山の描写は実際に体験したと言うこともあり見事です。核兵器が絡む話もあり,緊張感を高める内容でした。 2021.8.17 
囚(とら)われの山  伊藤  潤  中央公論新社
(2020.6刊) 
 はじめて読む作家の本です。新田次郎の「八甲田山死の彷徨」は有名ですが,これは古典的な名作となっている今,八甲田山雪中行軍の謎を追いかける雑誌記者が同じ日に八甲田山域に入り,深入りすぎて命の危険にさらされるミステリー作品です。
 国会図書館や現地自衛隊駐屯地にある資料館の資料を基に謎に迫る話と,雑誌記者の私生活を織り交ぜて進める話はとても面白く,2日間で読了してしまいました。
 2021.6.6
 草すべり
その他の短編
南木佳士   文春文庫(2011.9月刊)   「山行記」に惹かれてもう一冊の自伝的小説を読んでみました。重松清氏の解説にあるように,物語の起伏は山登りの起伏であり,山を通して生きる,生きている,生き延びるを感じさせる短編集でした。  2021.1.24
山行記  南木佳士   文春文庫(2016.5月刊)  以前「阿弥陀堂だより」という映画を見て,信州山里の雰囲気に感動してその余韻が頭の片隅に残っていました。山の本を物色していたら,その原作者が鬱を患い50才から山登りをしているという記事を見つけました。そしてたどり着いたのがこの「山行記」でした。
 夫婦や職場の仲間との山行記録で,山模様,人模様の描写がほのぼのとしていて癒やされました。同じコースを歩いてみたい気にさせられました。
 2021.1.19
不屈 山岳小説傑作選  北上次郎・選  山と渓谷社(2020.3刊)   加藤栫E井上靖・夢枕獏・熊谷達也・新田次郎・真保裕一・笹本稜平7名の著名な山岳小説家の作品のうち,山岳小説の極めつきという抄を選んだものです。個性きらめく山岳描写は素晴らしく,途中で止められなくなりました。これまでに読んだものもありましたが,新発見が沢山ありました。 2021.1.9 
 写真で読む
山の名著
萩原浩司  山と渓谷社(2019.1刊)   これまで手当たり次第に読んできた山の本ですが,山渓の萩原編集長の解説で名著50冊が紹介され,著者の人柄や読みどころなど再認識させられました。随所に素晴らしい写真が挟まれ,拾い読みするのも楽しいものでした。
 これをベースにもう少し名著に親しんでみたいと思いました。
 2021.1.5
 山岳捜査 笹本稜平   小学館
(2020.3刊)
鹿島槍ヶ岳と五竜岳を舞台に,犯罪を捜査する長野県警山岳遭難救助隊を主人公とした警察小説です。氷結死体が鹿島槍北壁下の天狗の鼻で発見され,複雑に絡み合った犯罪へと深まっていく面白さは格別です。さらには県警組織についても詳細に描かれ,著者の得意とする山岳と警察描写が面白くて二日で読んでしまいました。
 笹本作品の蔵書が多い桂図書館から借りてきました。 
 2020.9.25
エベレスト初登頂   ジョン・ハント エイアンドエフ
(2016.8復刻刊)
 エベレスト初登頂のイギリス遠征隊を率いた隊長の帰国後1ヶ月で書き上げたという記録です。ヒラリー自伝と比べると記録的すぎてやや面白みに欠けるところがありますが,50人の隊員を統率して初登頂を成し遂げたというその能力には圧倒されます。
 しかし,冷徹なマネジメントの裏に想像を絶するストレスを抱えての毎日から逃げ出したいという下りに,一人の人間としてとても親しみを覚えました。
 2020.9.18
 希望の峰 
マカルー西壁
 笹本稜平 祥伝社
(2020.7刊) 
  「ソロ」シリーズの完結編で,ヒマラヤマカルーの西壁を冬季単独登攀に成功する話です。イタリアドロミテやパタゴニアでのトレーニング描写も読み応え充分です。
 しかしながらマカルーのヘッドウォールは人間には手に負えない壁で,挑戦するまでの緊張感がなんとも汗ばむ感じです。登頂成功を結びとしていますが,とにかく手に汗握る冒険小説でした。 
 2020.8.29
 ヒラリー自伝  サー・エドマンド・ヒラリー  草思社
(1977.10刊)
 今年1月ニュージーランドに行った際,添乗員から5ドル紙幣にはエベレスト初登頂のヒラリーの肖像画が描かれているという話を聞いて,ヒラリーについて調べていたら古本が見つかったので早速取り寄せてみました。
 幼少期から50代に至るまさに冒険記録でエベレスト初登頂もその一コマに納められていました。気負いのない飾らない書き方で,かなりの大作なのですが引き込まれてしまい2日間で読んでしまいました。登山家というよりは家族思いの,人間思いの視野の広い活動家としての姿に感銘を受けました。
2020.4.14 
 黒部源流山小屋暮らし  やまとけいこ 山と渓谷社
(2019.4
刊) 
 武蔵美を出たイラストレーターの薬師沢小屋で働いた体験記です。薬師岳から雲ノ平に向かったときに休憩した小屋の話で,親しみを持って読みました。表紙といい本文中のイラストといい,実に山の雰囲気が良く出ています。いつの間にかページをめくってしまいました。  2020.3
K2復活のソロ   笹本稜平 祥伝社
(2019.6刊) 
 桂図書館から借りて読みました。山好きな選定者がいるのか山岳小説の新刊があります。
 ソロの続編で今回はK2への冬季単独登頂の物語です。アマ・ダブラムのトレーニングで仲間が死亡,中傷を受けながらも八ヶ岳の登攀で癒やされ,夏のK2冬のK2と挑む姿に引き込まれました。喫茶店に丸一日籠もって最後まで読んでしまいました。読み出したら気になって止められない本です。
 R1.10.30
 蒼き山嶺  馳  星周  光文社
(2018.1刊)
 桂図書館にありました。
 早春の白馬鑓温泉から白馬山頂を越え,栂海新道を延々と下って日本海へと抜ける山行を,山での描写のみで書き上げた山100%の小説です。しかし,そこには北朝鮮工作員として潜伏していた山中間やK2で遭難したこれも山中間の妹が登場してサスペンス風となり,追っ手から逃れる様はすさまじい迫力がありました。
 雪山の描写がこれでもかと続き,あたかも一緒に雪山登山をしているような気にさせられました。
H30.4.10 
ソロ   笹本稜平 祥伝社
(2017.8刊) 
 桂図書館から借りて読みました。
 アルパインスタイルのソロでヒマラヤに挑む29歳の若者が悩んだ末に登山用具のスポンサーシップを受けることを契機として登山への考え方を成長させていく様を描いています。最後はローツェ南壁へのソロ登頂を成功させるわけですが,その前段となるヒマラヤやカラコルムの山へのチーム登山の描写が素晴らしい。
 かつて歩いたエベレスト街道の情景が目に浮かんできました。
H30.3.21 
大岩壁   笹本稜平  文藝春秋
(2016.5刊)
 ヒマラヤの世界最大の岩壁と言われるナンガ・パルバットに挑む若者の物語です。ミステリー風の展開が面白く360ページがみじかく感じられました。  H29.3.20
生還者   下村敦史  講談社
(2015.7刊)
 「冬の白馬岳ガイドツアーに参加した数組のカップルのうち,女性だけが遭難死した。生き残った男性たちが男性ガイドを巻き込み,カンチェンジュンガを目指したが雪崩遭難にあってしまった。そしてふたりの生還者が全く食い違った状況説明をしたことから,意外な事件性が明らかになる。」山岳ミステリーですが,山の風景や登山の描写が圧巻で,まさに自分がヒマラヤに行っているような感じにさせられます。その上ストリーが筋道立っていて読み出したら止まりませんでした。
 意外なことに著者は登山をしないとか,参考資料で山岳小説を書いたとはとうてい思い至りませんでした。
 H28.12.17
ブロッケンの悪魔   樋口明雄 角川春樹事務所 
(2016.2刊)
 自衛隊員の殉職を隠す政府に反発して,VXガスを北岳から東京へ発射するというテロを企てた自衛隊有志と,これを阻止する南アルプス山岳救助隊そして救助犬の攻防を描いた異色の山岳小説です。舞台の大半が北岳と鳳凰三山となり,身近な地名があちこちに出てきて,まるで自分が登場人物になったような気分で一気に読み終えてしまいました。よく練ったストーリーで面白さ抜群でした。  H28.10.6
 新編 単独行  加藤文太郎
福島功夫新編集
 ヤマケイ文庫
(2011.11刊)
 加藤文太郎の著作物に福島功夫氏の解説を加え,さらに加藤文太郎の上司や知人,加藤文太郎夫人の思い出文等を加えたもので非常に読みやすくなっています。遭難事情と前後処置の記録には一瞬緊張しました。
 加藤文太郎の著作物は「単独行」という本にまとめられており,電子書籍では無料で読むことができ,これを先に読んでいました。山行記録や山のエッセイ,評論などが前後して少し読みにくく感じましたが,とにかく山にとりつかれた誠実な人柄が偲ばれる内容でした。
 この本は,加藤文太郎の著作物の内容を整理して章立て,解説を加えているので加藤文太郎その人を深く掘り下げています。
 花子夫人の思い出文を読むと,ごく平凡なサラリーマンのようで新田次郎の「孤高の人」とは別人のようです。
 そういった点で谷甲州の「単独行者」は加藤文太郎その人に近いと思いました。
 H28.1.19
単独行者
アラインゲンガー
新・加藤文太郎伝
 谷 甲州 山と渓谷社 
(2010.10刊)
 30歳で遭難死を遂げた加藤文太郎の人間像を描いたものです。  著者が30年の歳月をかけて温めてきたもので,2段組で500ページにもわたる大作でした。仕事を完璧にこなしながら,限られた休日に厳冬期の北アルプス縦走を単独で成し遂げたその偉業は,今日まで途切れることなく語り継がれています。
 著者は,単独行にこだわり続けた加藤文太郎を日常生活から山行に渡って詳細に描いており,まるで映像を見ているような錯覚にとらわれます。
 冒頭の遭難捜索の場面とエピローグの遭難する場面はあたかも自分がその場面にいるようなリアリティで迫ってきて,途中で読むのを止めることができませんでした。
 著者は,「白き峰の男」という作品で加藤文太郎のわずかな一面を描いていますが,この本はフィクションとはいえ加藤文太郎そのものが描かれいるような気がしました。
 H28.1.3
分水嶺   笹本稜平 祥伝社
(2014.10刊) 
 大雪山系石狩岳付近でエゾオオカミに遭遇して魂の分水嶺を超えた男と山岳カメラマンがリゾート開発阻止のためオオカミの姿を記録しようと大雪山系に籠もり,ついにその姿をとらえるという物語です。主人公の一人は冤罪として不動産会社社長の殺人者に仕立てられ刑に服しましたが,失われた人生を悔やむことなくオオカミとの再会を求めていくその姿は,人間がオオカミを滅ぼした償いの姿でもあります。
冬の大雪山系の描写が素晴らしく,麓での刑事事件と絡ませてつい引き込まれ2日間で読んでしまいました。
 H27.10.29
遙かなる未踏峰上・下   ジェフリー・アーチャー 
戸田裕之訳
新潮文庫
(2011.1刊) 
 エベレスト初登頂を成し遂げたとも推測されるジョージ・マロリーの生涯を描いた評伝小説です。幼い頃から天才的なバランス感覚を持ち,より高い未踏峰へと魅せられていった男の生涯を日常の家庭生活や歴史教師としての仕事ぶりなどを交えながら詳細に記述しています。1924年という時代に前人未到のエベレストに挑戦する男としてはあまりにも家庭的で,常識的な一般市民としての姿に非常に親しみを覚えました。命をかけてでも自分の信念を貫き通した通した男を本当に同レベルに感じさせられました。  H27.10.16
あしたはアルプスを歩こう   角田光代 講談社文庫
(2007.7刊) 
 「八日目の蝉」で有名な著者が,NHKBSの「トレッキングエッセイ紀行」という番組制作で,イタリアアルプスのドロミテを歩いた時のエッセイです。日本の僧侶の資格を持つイタリア人山岳ガイドのマリオさんの案内で,雪や岩のコースを1週間にわたり歩いた感想が著者の作家ならではの言葉で語られています。生きると言うこと,山歩きをすると言うこと,書くと言うことなどがなんなのか,マリオさんとの問答が旨くまとめられていて,異色な山岳エッセイになっていると感じました。
笠ヶ岳山行の折,山小屋で読みました。
 H27.8.29
そして謎は残った
伝説の登山家マロリー発見記 
 ヨッヘン・ヘムレブ他 文藝春秋 
(1999.12刊)
 1924年イギリスのエベレスト登山隊アッタクメンバーであるマロリーとアーヴィンは最終キャンプから山頂を目指して行方不明となり,果たして登頂したのかどうか大きな話題になりました。そして75年後,当時の登山ルートを忠実にたどったアメリカの捜索隊がマロリーの遺体を発見したのです。この二つの登山を同時進行の形で展開させて,まるで大理石でできた古代彫刻のような真っ白なマロリーを発見するまでの記録は息をつく暇を与えません。遺体をはじめ登山服から出てきたメモなどの写真が満載されており興味が絶えません。そしてそれらの分析の結果,登頂したともしないともいえる事実に,タイトル通り謎は深まるばかりでした。  H27.8.25
石を積む人   エドワード・ムーニー・Jr(杉田七恵訳)  求龍堂
(2004.10刊)
  北海道美瑛と十勝岳を舞台にした映画「愛を積む人」をみて原作を求めてみました。原作はアメリカが舞台で,妻に先立たれた老父が,生前の妻の依頼で石塀を完成させるまでの1年ほどをパイン・マウンテンに対峙して生きる様子を描いています。妻の残していったたくさんの置き手紙と関わりを持つことになる若者との交流などが挿入され,ミステリアスなおもしろさに引きつけられます。
 この老父は,最後に山登りの途中で若者の一人に殺されてしまうのですが,この場面は映画では変えられていました。余韻としては原作の方がより現実的な印象を受けました。
 H27.7.16
 すべての山を登れ。  井賀  孝  淡交社
(2014.4刊)
  山岳信仰に共鳴し,修験の道に入ったカメラマンの山岳エッセイ。
著者はまえがきで,国内10の山の山行で実感して獲得した言葉を拾い集めて,1冊の本にしたと述べています。漠然と山登りをするのではなく,自分で枠を決めずまずはすべての山に登れと著者は言います。 そして,山は私たちが本来持っているであろう感性を広げてくれるというころに,山の写真の極意があるような気がしました。挿入されている大きな写真も魅力があります。
 H27.7.6
クライマーズ・ハイ   横山秀夫 文春文庫
(2008.6刊) 
  著者が地元上毛新聞の記者だったときに,日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落しました。当時の取材体験を基に生まれた作品で,世界最大の航空機事故の取材と,記事作成の荒々しさが緊張感を持って描かれています。
 そして17年後,亡くなった友人の息子と一緒に谷川岳一ノ倉沢衝立岩を登る主人公の心情が回想的に織り交ぜられます。
 この2つを結びつける伏線が様々に張りめぐらされ,どう収斂していくのか読み出すと止まらなくなりました。
 堤真一主演の映画をテレビで見て,是非原作を読みたくなった作品です。
 H27.7.3
森の聖者
自然保護の父 ジョン・ミューア 
 加藤 則芳 山と渓谷社
(1995.3刊) 
 アメリカ国立公園の基本的理念を作った人物として著名なミューアの伝記ですが,単なる伝記ではなく自然保護のなんたるかをミューアを通して描いているところが素晴らしいと思いました。ヨセミテ渓谷に5年間こもり,広大なシエラネバダの山々を放浪して自然保護の父となったミューアが目の前に動いているような文章です。著者も八ヶ岳山麓に移住しており,山に関する憧憬の深さの表れと言って良いと思います。読み出して1日で読了してしまいました。  H27.6.19
山の旅 本の旅
登り歓び,読む愉しみ 
 大森 久雄  平凡社
(2007.9刊)
 山の本に興味を抱いて同じ著者の2作目を手に入れました。朋文堂の山の月刊誌「山と高原」に,「深田久弥の日本百名山」の連載に携わった著者ならではの百名山誕生の詳細には引き込まれ,つい先へ,先へと読み進んでしまいました。アルプスにまつわる山の本も,前著より増えて読み応えがありました。山に登る歓びと山の本を読む愉しさが十二分に汲み取れる一冊です。  H27.6.18
 本のある山旅  大森 久雄  山と渓谷社
(1996.11刊)
 朋文堂,実業之日本社で山や旅の本の編集者を務めた著者が,山の記録の中にその山ゆかりの本を紹介していて,独特の山行記録になっています。荒船山からスイスアルプスまで膨大な著作の引用には「山と本」の関わりの深さを思い知らさせられます。つい引用した本を追いかけてみたくなりました。  H27.6.12
遭難者   折原  一  文春文庫
(2014.5刊)
 唐松岳不帰ノ剣で遭難死した「柴田亨彦氏」の追悼集をベースにした推理小説です。初めて手にする著者の作品でしたが,山での描写や松本市内の様子などが実にリアルで,テンポ良く進むストーリーと相まって一晩で読んでしまいました。遭難という痛ましい事実ながらその原因をたどっていく過程にはかなり興味を引きつけられるものがあります。そしてミステリーにつきものの予想外のどんでん返し,山度100%の山岳ミステリーでした。  H27.4.14
 山もよう 人もよう  荒井 正人   白山書房
(2014.6刊) 
 日本生命保険会社を定年退職した著者が,青春時代から現在に至るまでの山歩きをまとめたもので,山への愛情がひしひしと伝わってきます。山へ目覚めた学生時代の記録には,屋久島や南アルプス縦走,ヨーロッパアルプストレッキングがあり,若い時代の貴重な体験に引き込まれました。そして老いてからのあまり有名でない渋い山登りには共感を覚えました。一般のサラリーマンだった方の山登り半世紀にとても親しみを感じながらあっという間に読了してしまいました。  H27.4.13
狼は帰らず
アルピニスト 森田勝の生と死 
 佐瀬  稔 中公文庫
(2007.5刊) 
 大学OBが登山界を仕切っていた時代,山岳会にはなじめず一匹狼として目立ちたがり屋的岩登りを続けた「森田勝」の生涯を描いたものです。人に認められたくて懸命に自己を主張しても思いは果たせず,ついに志し半ばでグランドジョラスで死亡した彼の山人生は,あまりにももの悲しい物語でした。  H27.3.2
 アルピニズムと死  山野井泰史  ヤマケイ新書
(2015.2刊)
 チリアンデス山行の折に飛行機の中で読みました。「凍」や「垂直の記憶」で,天国に一番近いクライマーと呼ばれるべくして呼ばれた著者の「いかにして生き残ったか」を書き上げた本です。少年時代から並みの人ではない凄さを感じましたが,人一倍恐怖心が強く,危険への感覚が麻痺してしまうことが一度もなかったという自己分析にはすごく納得させられました。そして,山登りがとても好きで,いつ何時でも山と全身からの声を受け取ろうと懸命だったという下りに生き延びた理由がありそうです。身震いするような本でした。  H27.2.19
朝焼け   安川茂雄 スキージャーナル
(1971.9刊) 
 青春時代に山に魅せられた3人の男達が中年を迎え,山を続ける者とそうでない者に分かれたが偶然の機会から3人とも山に登るようになりました。そして一人は遭難死することになるわけですが,生き延びた者とそうでない者との山への思いが異なり考えさせられました。舞台となる穂高岳の描写も素晴らしいですが,それ以上に3人の男の内面描写が重々しく著者の原体験からにじみ出ているようです。
「新田次郎」以前にこのような山岳小説家がいたことに驚きました。
 H27.2.10
冬のデナリ   西前四郎 福音館文庫
(2004.2刊) 
 デナリ,これはマッキンレーの古来の名称です。この山に魅せられた著者は,植村直己さんが冬のデナリに挑戦して行方不明になる17年前に,同じ冬のデナリに8人の登山隊の中のただ一人の日本人として参加しました。その山行記録を元にしてこの小説が作られました。
ぞくぞくするほどの真に迫った素晴らしい小説です。
登頂後ブリザードに遭遇し,雪洞で1週間生き延び奇跡の生還と言われた3人の内面描写はリアルであり,著者の仮名であるジローの「あきらめるな,生きろ」という言葉の強さをつくづく感じました。「小学校上級以上」の児童書とされていますが,幅広い年代層に生き抜くたくましさを授けてくれる作品で,中学生あたりに是非とも読んで欲しいと思いました。
 H27.1.30
初めての山へ六〇年後に   本多勝一 山と渓谷社
(2009.11刊) 
 77歳を迎えた著者が,高校時代に初めて登った塩見岳に感激して山の虜になったその山へ60年後に訪れた感想を綴ったもののほか,結婚のきっかけとなった北岳への思い出登山などがまとめられています。高校時代の山行記録や結婚相手となった人との山行の思い出などが挿入されていて感慨深いものがあります。鳥のさえずりから種類を同定する著者の技量には驚きました。動植物に関する知識もプロ並みで多彩な才能に圧倒されました。  H27.1.20
 六十五歳ますます愉しい山山  本多勝一  朝日新聞出版
(2009.6刊)
 「山を考える」の著者が50歳から再開した山歩きの記録を綴ったもので,乗鞍岳から積丹岳まで16の山が描かれています。文章も素晴らしいですが装画や装絵,写真もプロ並みです。山頂の標識や記念碑の問題とか早池峰のトイレ事情など辛口評論には説得力がありますし,年老いても必ず同行する仲間がいることも素晴らしいと感じました。  H27.1.13
回想の北岳   宇高光夫 アピ 5号
(2014.11刊)
 青年時代,結婚を誓い合ったものの北岳バットレス単独登攀で遭難したことを契機に女の人と分かれることになり,還暦過ぎまで独身を通している男と,家族で北岳登山に来て一人娘を大樺沢で亡くしたことを契機として離婚し,その後還暦を迎える女が偶然にも一人の山ガールと3人で鳳凰三山を目指すことになりました。そして休憩のたびに老いた二人が北岳を回想し合うことにより,お互い引かれていくというもの悲しいラブトーリーです。100名山を登ったという著者が文芸同人誌(文学を愛する会:茨城県笠間市)に発表した短編の山岳小説で山もよう,人もようが見事で,一気に読んでしまいました。肉付けして長編にして頂きたいものです。  H26.12.27
高熱隧道   吉村  昭  新潮文庫
(2008.7月刊)
 犠牲者300余名を数えた黒部第3発電所のトンネル工事を描いた記録文学です。峻厳な渓谷沿いの道とは言えない道をたどって人力で建設資材を運び,岩盤温度165度の高熱地帯にトンネルを掘るという自然との闘いは壮絶なものがあります。工事監督人の困難を極めれば極めるほど貫通の喜びが増すという心理に,先鋭的な登山者の姿を重ねてしまうほどの人物描写が見事です。また,約170名の作業員の命を奪った大爆風を伴う泡雪崩という雪崩には寒気がしました。  H26.12.21
灰色の北壁   真保裕一 講談社文庫
(2008.1刊) 
 「ホワイトアウト」で迫真の冬山描写をして山岳小説家として高い評価を得ている著者ですが,登山はしないインドア派だと言うことにびっくりしています。それがこの文庫に収められた表題作ほか2編で新田次郎文学賞を受賞しているのですからなおさら驚きです。
灰色の北壁はあまりにも有名ですが,私は遭難した息子の足跡をたどろうとする52歳の父親の雪山登山を描いた「雪の慰霊碑」に引きつけられました。雪山の中で繰り返し描かれる父親の心の謎がとても気になりました。
 H26.12.10
南極風   笹本稜平 祥伝社
(2012.10刊) 
 ニュージーランドのアスパイアリング登頂ツアーのガイド森尾は,下山中落石に見舞われ5名の死者を出してしまい「未必の故意」という罪で起訴される嵌めになりました。無実を晴らすための検察官との死にも狂いのやりとり,そして遭難場所からの死を覚悟しての生き残ったものの救出,さらにはサザンアルプスの描写など息を飲むほどの展開でした。これまで読んだ作品とはひと味違ったミステリー風の緊迫感溢れた,これぞ山岳小説といった作品でした。  H26.11.26
白き嶺の男   谷  甲州 集英社文庫
(2012.10刊) 
 著者はヒマラヤの7000m峰に登ったという体験からか,山100%の小説で,国内外とも山の描写が際立っています。単独行者として有名な「加藤文太郎」をモデルにして表題の短編ほか5編が納められています。新田次郎の「孤高の人」に描かれた超人的な人物像とは異なって,ごく普通の気の弱さをもった若者として描いており好感が持てました。表題は1996年の新田次郎文学賞を受賞しています。  H26.11.13
八月の六日間   北村  薫 角川書店
(2014.8刊) 
八月の六日間ほか4編の山行報告が,日常生活の息苦しさを織り交ぜてさわやかに記録されています。癒やしの世界として登山がある,日常生活の逃避として登山があるとも感じさせられますがそれはさておき,山のすばらしさが十二分に伝わってきました。
後で分かったのですが,著者は1949年生まれの男性で,主人公は40前後の独身女性という設定に「えっ」と驚かされました。読んでいて著者自身の体験記かと思ってしまいました。
 H26.10.27
その峰の彼方   笹本稜平 文藝春秋
(2014.1刊) 
 「未踏峰」,「還るべき場所」,「天空への回廊」に続く長編です。厳冬期のマッキンリーに単独登攀して遭難した「津田」を救出すべく,地元山岳ガイド仲間や友人の「吉沢」そしてアラスカ州兵が操縦するヘリが極寒の世界に挑みます。死と隣り合わせの状況の中で活動するわけですが,その充実感に誰もが満たされています。そして,その充実感を感じるべく,遭難者の「津田」はあえて死の淵に向かったという下りに,なぜそれまでして山に登るのかという問いに対する答が示されているように感じました。大作です。  H26.10.5
 山女日記  湊かなえ 幻冬舎
(2014.7刊) 
 「告白」で有名な著者の山行記録とは異質な随想とも言うべきものです。妙高山からトンガリロ(ニュージーランド)にわたる7つの山旅の記録ですが,独身女性が7人それぞれ7つの山旅で主人公になって,自分の生き方を回顧したり見つめ直したり内容です。7人がお互いに関係し合っていて,それぞれが個性的な山登りの話でつい夢中になり1日で読んでしまいました。著者はどの女性だったのか,ちょっと気になります。  H26.8.28
天空への回廊   笹本稜平 光文社文庫
(2004.9刊) 
 エベレストを舞台にした山岳小説では,夢枕獏の「神々の山嶺」に匹敵するおもしろさでした。日本人クライマーがエベレスト冬季登攀に挑んでいたその時,核爆弾を搭載した人工衛星がエベレスト8000m地点に落下する。アメリカ合衆国大統領から山頂でのROMの回収を依頼された彼は,単独登頂を目指す。660ページに及ぶ大作ですが手放されなくなります。エベレスト山麓を歩いた経験が舞台をより身近に感じさせられました。  H26.8.5
脊梁山脈   乙川優三郎 新潮社
(2013.7刊) 
 著者は直木賞受賞作「生きる」で時代小説家としての地位を築きました。この作品は,舞台を昭和21年からの10数年に渡る現代に移し,木地師(「手挽ろくろ」という道具を使って、お椀などの木地を作った職人。)の歴史を調査するため,長野から東北にかけて脊梁山脈(奥羽山脈)を歩いた一復員兵の青春ともいえるドラマで,山の描写と相まって東京と山里に生きる2人の女性,「佳江」と「多希子」との交流が何とも切なく重苦しい。戦後復興に「生きる」ものの悲しさを感じました。  H26.7.4
聖域   大倉嵩裕 東京創元社
(2008.4刊) 
 学習院大学山岳系同好会出身の著者が,数年の構想を経て書き上げたという山岳ミステリー小説です。「山小屋を守ろう」という運動に絡んで,山屋と称せられる人たちが地位や名誉といった欲望から人を危める状況に追い込まれていく様を,塩尻岳という架空の山を舞台にくり広がれます。登山の専門家に監修してもらったというほど山の描写はリアルですが,後味はあまりよくありませんでした。  H26.5.22
春を背負って   笹本稜平 文春文庫
(2014.3刊) 
 奥秩父梓小屋を舞台に,父の死を契機に脱サラして山小屋の主人となった主人公が,ホームレスの男や自殺願望のOLなど特異な人たちとの交流を通して一段と成長していく様を生き生きと描いています。「人生の避難小屋」というべき山小屋で蘇生して日常生活に戻っていく過程が面白く,夢中にさせてくれます。映画化され,6/14から始まります。是非見てみたいと思います。  H26.5.16
私のヒマラヤ
ダウラギリW峰 
 今井通子 朝日新聞社
(1976.12刊) 
 カモシカ同人登山隊の医者として山頂直下まで登った著名な女性クライマーの山行記録。頼りにならないシェルパやポーターをものともせず,11名の登頂に成功したのは,3年の準備期間を経て培った仲間との信頼やチームワークの賜物だったとする著者の暖かく冷静な観察力が伝わってきます。40年ほども前のネパール カトマンズの様子やキャラバンの様子が人間模様を含めてとても面白く感じました。  H26.4.21
山の自然学   小泉武栄 岩波新書
(1998.2刊) 
 自然の歴史を軸に,地質・地形・植生などを関連づけて山の自然を説明しています。北海道から九州まで,なぜ多様性に富んだ個性的な山ができたのか解き明かしています。「山歩きはもっともっと楽しめる」本です。  H26.4.3
アコンカグア山頂の嵐   チボル・セコリ 栗栖継,茜訳 ちくま文庫
(1999.7刊) 
 ヒマラヤにまだ目が届かない1944年代にアンデス最高峰に登頂した記録。著者はベテラン登山家の率いる登山隊に参加して登頂するも,隊長以下4名が死亡するという悲劇に見舞われた。その一部始終を人間模様を含めながら見事に描ききっています。ジャーナリストと言うだけあって読ませるテクニックは素晴らしく途中で止められなくなってしまいました。そして終末のひときわ重い読後感,串田孫一が復刻を勧めた山の名著だと思いました。  H26.3.8

日本の名随筆10 山
 北杜夫編  作品社
(1989.10刊)
 尾崎喜八に始まり三浦雄一カまで30人の山への思い,記録などが綴られています。北杜夫が選んだ有名人のものだけに堅苦しい文体もあり,おもしろさは余り感じなかったが登山史の重みは十分に伝わってきました。  H26.3.7
高く遠い夢ふたたび   三浦雄一カ 双葉社
(2013.7刊)
 80歳でエベレスト登頂を成し遂げた三浦氏の登山記録。大名登山とも称されたものだが,科学的な裏付けに基づいた周到な準備がないとエベレストには登れないことがはっきり書かれています。高齢でなくとも一人の人間では登頂はおぼつかないようです。本人の人一倍強い気力とチームワークの重要性を感じました。 H26.2.17 
四度目のエベレスト   村口徳行  小学館文庫
(2005.7刊)
 著名なカメラマン登山家のエッセイ。個人的な登頂も含めてカメラマンとして4回もエベレストに登っている著者の山への思いがひしひしと伝わってくる。沢山のカラー写真がすばらしい。 H26.1.30 
死者として残されて
エヴェレスト零下51度からの生還 
 ベック・ウェザーズ  山本光伸 訳  光文社
(2001.12刊)
 エベレストで12人の遭難者を出した公募登山のメンバーで,7800m地点で死者として放置されたが奇跡の生還を果たした人間の記録。死に直面し,生を取り戻した描写がすさまじ迫力で迫ってくる。そして,自分の鬱症状から家庭を顧みないで山にのめり込み,エベレストで死に直面して家族の大切さに目覚めたいきさつが,家族の手記を織り込んで克明に描かれている。読み終わってとても疲れました。 H26.1.21 
七大陸最高峰に立って   田部井淳子  小学館
(1993.7刊)
 「エベレスト・ママさん」以来15年ぶりの著作。子供向けに平易に七大陸最高峰のすばらしさ,厳しさ,挑戦する意欲などをつづっている。世界の個性ある山々がすぐそばにそびえているような気分にされ,著者の人柄と相まって親しみやすく一気に読んでしまいました。 H26.1.17 
世界のてっぺんに立った!熟年女性7大陸最高峰制す   久末眞紀子  北海道新聞社(2010.3刊)  40歳から登山を始めた普通の主婦がエベレストをはじめとする7大陸の最高峰に登った自伝エッセイです。素人でも登れる山と謙遜するが,気力,体力,そしてお金の工面とすさまじいまでの努力の結晶と感じました。そして,還暦の年に大学英文科を卒業し,タイの日本語教師になるというたくましさに圧倒されました。田部井さん以外にもこんな人がいるんだと驚きました。 H26.1.12 
屋久島物語   柳瀬良行  日本文学館
(2013.12刊)
 鹿児島県職員の著者が屋久島環境文化村センターに派遣された3年間,体験した自然や島の人々と交わった生活を元に描いた小説。自然保護を表面に表さずに,人が生きていく上でいかに豊かな自然環境が必要かを屋久島の自然と若い女性との交流を通して訴えています。
自然保護協会の機関誌「自然保護」に紹介されていました。
 H26.1.10
私の山
単独行の君への手紙 
 安蔵貞夫  鶴屋書店
(1983.10刊)
 水戸市在住の著者による12の山の山行記録を架空の人物に宛てた手紙形式でまとめたもの。30年ほど前に手に入れたままで本棚の奥にしまわれていました。一生懸命生きようとする人の避けがたい喜怒哀楽を,山は凝縮して教えてくれるという著者の思いがほとばしり出ていました。地元と言うこともあり親近感を持ちながら,私も登ったことのある山の描き方に感心させられました。  H25.11
新版 山を考える   本田勝一  実業之日本社
(1974.4刊)
 パイオニアワークとしての登山はなくなったから,ヒマラヤ,アルプスと世界の登山事情,山岳遭難の新聞報道など登山を多岐な面から掘り下げていて,まさに山について考えたレポート集です。30数年前に読んだことはあるのですが今でも新鮮な読後感でした。  H25.11
本田勝一の探検と冒険   岡崎洋三  山と渓谷社
(2000.1刊)
 「山岳記者」,「山を考える」などであまりにも有名な本田勝一の生い立ちから仕事の実績,探検や冒険の考え方などを綿密な資料やインタビューから描いています。改めて本田勝一の作品に触れてみたくなりました。 H25.11 
星と嵐   ガストン・レビュファ(近藤等訳)  ヤマケイ文庫
(2011.6刊)
 1954年山岳文学大賞を受賞した作品で,著者ともザイルを結び合うほどの親交のあった訳者が改訳したもの。アルプスの6つの北壁を登攀した記録を詩情豊かにつづっている。ロッククライミングの経験はないものの,山への賛美には共通するものを感じました。  H25.11
空へ
エベレストの悲劇はなぜ起きたか 
 ジョン・クラカワー  文藝春秋
(1998.10刊)
 アメリカのアウトドア誌の記者がエベレストの公募登山に参加して体験した遭難の記録。12人の遭難者を出した悲劇が詳細に描かれている。田部井さんに続いて日本人女性2人目の登頂者となった難波さんが亡くなるまでの描写も生々しい。最近のエベレスト登山の実態がひしひしと伝わってきて,読み終わったら大きな疲労感に襲われました。  H25.10
氷  壁   井上  靖  新潮社 昭和32年発行の山岳小説の古典が,平成17年に新装版として発行されたものを町の図書館で見つけ読んでみました。あまりにも有名な本なので知っていたつもりが,実は全く知らなかったことがわかりました。最近亡くなった山崎豊子氏の師匠とか,リアルな山岳描写は徹底した取材にあるようで納得させられました。登山と日常生活が織りなす人間模様に深く引き込まれ一気に読んでしまいました。  H25.10.16 
登頂 竹内洋岳   塩野米松  筑摩書房  8000メートル峰全山無酸素登頂を果たした竹内氏をロングインタビューした記録。本書には最後の2峰,チョー・オユーとダウラギリ登山の詳細がまとめられており,NHKスペシャルで放映された場面が鮮やかに,そして画面では見られなかった状況が克明に描かれていました。著者があとがきで述べている言葉が印象的です。「竹内は,登山は自分に対してのスポーツであり,それを言葉で語ることで人と分かち合いたいと思っているのだろう。」という締めくくりです。  H25.10.4
黒部の山賊
アルプスの怪 
 伊藤正一  実業之日本社  裏銀座縦走の折,水晶小屋で購入したもの。戦後まもなく三俣山荘や水晶小屋の経営を始めた著者と山賊(猟師)達との交流を黒部川源流を舞台に描いた記述は,ほんの少し当地を歩いた身にとっても真に迫る迫力があります。山のバケモノ達の章には思わず吹き出してしまいました。なお,著者は日本勤労者山岳連盟の結成者とか,かつて労山の会員だった私にはとても身近に感じられました。  H25.9.16
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか  低体温症と事故の教訓   羽根田治他  山と渓谷社  登山ツアー会社のHPをのぞいていて見つけたもの。最近ツアー登山を利用するケースが増えてきたので気になって読み出したところ,昔,山の遭難でよく言われた疲労凍死が実は低体温症だったということに驚きました。生存者からの生々しいインタビューにもツアー登山に参加する心構えを改めて認識させられました。  H25.8.18
山はいのちをのばす   田中澄江  青春出版社  89歳になる著者の老いを迎え討つかしこい山の歩き方が紹介されている。これまで何百となく山に登り,今も登り続けている著者の登山のすすめはさらりとした文章の中にもずっしりとした重量感があります。 H25.7.28
 
還るべき場所   笹本稜平  文藝春秋  「未踏峰」を読んでその山岳描写に惹かれ読みたくなった物。ブロードピークの公募登山の一部始終が臨場感を伴って迫ってきます。そして隣にそびえるK2の姿がまるで現実に対面しているように感じられます。59歳の神津という登場人物の「魂の糧になるような登山をしてみたい」という言葉に竹内さんの「登山の哲学」を見たような気がしました。 H25.7.14
 
 標高8000メートルを生き抜く
登山の哲学
 竹内洋岳  NHK出版新書  8000メートル峰全山登頂を成し遂げた著者が,生い立ちから登山のきっかけを綴り,さらには二度の死の淵をさまよいながらも高所登山に挑戦し続ける哲学,本人は哲学風味と称していますが,考え方を示しています。
高所登山の魅力は難局を乗り越えるために働かす想像にあるとする下りは山野井さんに通ずるものを感じました。
 H25.6.26
 60歳からの登山挑戦記
    頂に夢を求めて
 吉村克臣  幻冬舎ルネッサンス  H12年に警視庁警察官を定年退職し,それから山登りを始めてH22年現在,300回以上の山行を続けている方の「忘れられない山行6編」を綴っています。
 山に魅せられる要素のいくつかが散りばめられ,一気に読んでしまいました。
 H25.6.13
 世界遺産 屋久島  日下田 紀三  八重岳書房  南北2500kmに及ぶ日本列島の自然が詰め込まれた屋久島,H3年日本の自然遺産第1号となった屋久島,その自然,風土と暮らしが栃木県益子町出身で元NHK記者らしい目で詳しくとらえられています。 随所に挿入されているカラー写真も見応えがあります。H6年現在著者は屋久杉自然館の館長をしておられます。
 宮之浦岳登山に向けて貴重な予備知識になりました。
 H25.6.14
 垂直の記憶
  岩と雪の7章
 山野井泰史  山と渓谷社  世界的なクライマーの7つの山行記録。あまりのレベルの異なる山行に近寄りがたい思いで読み進みましたが,各山行記録の最後に載せられたエッセーに「なぜそこまでして登るのか…」の答が記されているように感じました。かつて「凍」という小説になったギャチュン・カンの記録は小説以上の感動ものでした。   H25.6
 白きたおやかな峰  北  杜夫  河出文庫  古典的な山の名著といわれていますが,昔は自分の山行とはあまりにもかけ離れていて,手にしただけで中々読み進めませんでした。それが「草原の椅子」という宮本輝の小説を読んでからカラコルム山脈が気になりだし,思い出したように読んでみました。海外の山に少し踏み入れたこともあってか,大分身近に感じられ引き込まれました。  H25.6
 草原の椅子  宮本  輝  幻冬舎文庫  キリマンジャロ登山から帰国して眠気が覚めないときにたまたま見た映画がこれでした。パキスタン フンザ地方のロケでカラコルム山脈が見られると思い駆けつけました。いい映画でした。生きるのにくたびれた人たちが山で元気になる山は素晴らしいと思いました。
 小説にも引き込まれ,カラコルム山脈,ディラン峰を身近に感じました。
 H25.5
 未踏峰  笹本稜平  祥伝社文庫  障害を抱えた若者3人が,かつての世界的登山家で北八ヶ岳の山小屋主人の指導を受けヒマラヤ未踏峰に挑んだ小説。「生きることを喜びに変えられるような夢を持つ大切さ」とか「自分がこの世界で生きた証を残す」といった場面にいつまでも「青春」を持ち続けたいと感じました。  H25.4
 山歩きのオキテ
 山小屋の主人が教える11章
 工藤隆雄  新潮文庫  山小屋の主人の知恵袋が文庫化されたもの。山のノウハウ,モラルなどを実在の山小屋の主人を通して語らせています。非常に現実感があります。  H24
 トレッキング実践学  高橋庄太郎  竢o版社  アウトドアライターの山歩きのハウツウものです。前ページカラーで山歩き(トレッキング)のすべてが網羅されています。  H24


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